今更ながら『童貞。をプロデュース』を観た。

7/20(日)「第3回ガンダーラ映画祭」特別オールナイトにて@PLANET+1
率直に言うと、映画そのものを観る前に見知っていた大ヒットぶりや評判の良さからすると、やや肩透かしを食らった気分でした。

(わたしは、監督がこの作品についてどんなことを言っているかは全く知りません。なので「その件に関しては監督がこうフォロー済み」というようなことがあるかもしれません。気が向いたら教えていただけるとうれしいです。)

この作品はもともと「ガンダーラ映画祭」の第1回目と2回目に出品するためだけに作られた「童貞。をプロデュース」(以下「童貞1」)と「童貞。をプロデュース 2 ビューティフル・ドリーマー」(以下「童貞2」)をひとつの作品にまとめたものです。
ネタバレありなのでたたみます。)

・童貞1号の加賀君はなかなかのハンサムでオシャレさん。とても非モテ童貞とは思えません。やっぱりモテるかモテないかは本人の自意識の問題なんだということがこの一例からもわかります。

・加賀君のダメな自分語りがいとおしいです。加賀君というキャラクターを得たことがこの映画の「青春映画」としての最大の成功要因だと思う。

・後日挙がった加賀君からの異議申し立てによると、「性風俗産業は汚い」と思っている、という設定はウソであり、松江監督の考えたことで、無理矢理言わされたそうです。ヤラセかどうか、またそのこと自体の評価はさておき、その設定は「加賀君の成長物語」には結局あまり関係ないので、もし作った設定だったとすると、別に要らなかったんじゃないかな、とは思いました。

・じゃあ加賀君の背中を押したのはなんだったかと言うとカンパニー松尾さんの「人は迷惑をかけるものなんだよ。」という素敵なひとことでした。AVの撮影現場に連れて来られて、要求されたことに応えられず「迷惑掛けてすみません」と謝る加賀くんに松尾さんがかけた言葉です。人間は、誰かと関われば迷惑を掛けずにいることは出来ないんだ、迷惑を掛けないで生きるということは、誰とも関わらないで生きるということだ、だから、迷惑は掛けてしまうものなんだ、ということを前提にして生きていきなさい、と松尾さんは加賀くんに語りかけます。なんだか「童貞いじめ」みたいな流れになっていたところが、松尾さんのこの言葉で本当に救われた感じでした。思わず両手で握手を求めた加賀君の気持ちがすごくよくわかるよ!

・加賀君が要求されたことはなんだったかというと「女優さんにフェラチオをされるところを撮影される」ことでした。それを嫌がる加賀君。再三の説得にも首を縦に振らない加賀くんに業を煮やして、無理矢理服を脱がせて羽交い絞めにし、強制的にそれを実行させようとします。最終的には加賀君の抵抗で中断されたけれど、これはレイプ(未遂?)だよ、ということははっきり言明したいと思います。こういうことを笑い話として消費されたり、できなかったことを嘲笑されたりすることは男性の辛いところです。いや、もっとちゃんと言おう、それは差別だよ。こういう要求に応えられないことを「“男の恥”である」という物言いにはちゃんと反対していくよ。無茶なことを言われても受け入れる気概を持つことを自分自身の理想のあり方として生きることは全く否定しないし、それを「かっこいいこと」と評価する価値観はわたしも持っているけど、じゃあわたしが加賀君と同じこと(したくないことをすること)を要求されたらどうするか、って言ったら、そりゃ全力で拒否するよ。それはわたしが女で加賀君が男だからって違う話ではちっともないよ。これを仕事論として考えたって、AV女優さんに「嫌なことを拒否する権利」があることを考えれば、加賀君が要求に応えられなかったことは、蔑まれるようなことでは、全然ない。

・さっきちょっと言及した「加賀くんによる異議申し立て」によると、加賀君はそのことをちゃんとわかっているようで安心した。「あのとき要求に応えられなかった自分はヘタレだ」って自分を責める気持ちが全くないかどうかはわからないけれど、そういう気持ちに苛まれているばかりではなくて、ちゃんと怒っていることがわかってよかった。

・そんなこんなありつつ「迷惑はかけるものだ」という松尾さんの言葉に打たれて告白を決意する加賀くん。意中の人「まさみさん(仮名)」を渋谷に呼び出します。そして、そこではじめて作品中ずっと隠されてきた「まさみさん(仮名)」(超カワイイ!)の顔が顕になるその瞬間、そして結果を見せないままでの暗転!はとってもとっても映画的で、鮮烈な場面でした。そこはやっぱり、撮影した素材をどう構成して、どう編集するか――まちがいなく松江監督の力量なのだと思います。

・童貞2号の梅澤君は、本当は童貞ではなくて素人童貞。叔母さんちにデリヘル呼んで見つかって怒られたという伝説の持ち主。(これをして「童貞らしい作り話だ」と書いてる方がいらっしゃるのですがどうなのでしょう?)でも童貞1号の加賀くんよりもずっとずっと、童貞を「こじらせている」ようす。

・冒頭、童貞1号の加賀くんがゆらゆら帝国みたいな髪形になって、部屋に女子を連れ込んでエロスな空気を漂わせていて、憤死(わたしが)。童貞の頃はあんなに可愛いかったのに…とか、嗚呼、これじゃロリコンを嘲笑えない。

・ゴミ漁りとブックオフ巡りで拾った古雑誌からグラビアを切り抜き、マイスクラップブックを作ることに血道をあげる梅ちゃん。以前から思いを寄せていた女の子とのデートの帰り道、当の彼女も同乗する車を運転しながらゲロ吐いてしまう梅ちゃん…みうらじゅん…エロスクラップ…デートでゲロ……ああ、いたたまれない……!

・一応のゴールに設定した、自主映画を「元アイドル」島田奈美さんに観てもらうという企画に、島田さんは来てくれず、代わりに島田奈美のお面をつけて上映を見守ってくれたのは、梅ちゃんが心酔するマンガ家の根元敬さんでした。そのあと、梅ちゃんの部屋に招かれて、スクラップや蔵書を手に取る根本さん。恐縮しながらも喜ぶ梅ちゃん。二人が寄り添っているように見えるカットがあるのですが、それがわたしにはすごく卑猥に見えました。失礼を承知であえて言うと、気持ち悪かった。それは、ホモソーシャル的なものの醜悪な部分を感じたが故の、そのことに対する拒否反応としての気持ち悪さだったのか、そんな風に推理してはみたものの、まだ本当のところよくはわかりません。

・全部通して観終わってみると、表面的なことに終始しているように思えて、もっと踏み込めたんじゃないのかな、ともったいなく感じるところがありました。「童貞1」なら「性風俗産業は汚い」という言い分に対して当の性風俗産業に携わる人がどう答えるのか、とか、実際カンパニー松尾さんや女優さんにガッチンコとぶつけてみて、答えをもらっても良かったんじゃないのかな。「童貞2」では、事の成り行きに対して梅ちゃんは曖昧な笑顔を浮かべるばかりだし、島田さんは来てくれなかったけど根本さんが来てくれて梅ちゃんをよしよし、ってしてくれて良かったね、ってそれでいいのか?と正直思った。せめて島田さんの断りの文章を読み上げて、それに対する梅ちゃんのコメントをがっちり撮るだけでも、作品としてのケジメはついたのではないかと思うのです。メールの文章を引用することさえも断られたのかもしれないし、これだと「童貞1」とさして違わない作りになってしまう点は否めないけれど。

・この作品はそもそも最初に書いたとおり、「『探偵!ナイトスクープ』みたいなものを映画の世界でやりたかった」というコンセプトのもと始められた「ガンダーラ映画祭」に出品するためだけに作られたもので、先に上映日程を決めちゃってチラシも作って、それに向けていろいろと限られた中で仕上げられたものなので、あんまり注文をつけるのもお門違いかな、とは思うのですが、そう言っちゃうのもそれはそれで寂しいことだよね…