「崖の上のポニョ」@TOHOシネマズ梅田

「誰かをいとおしむ心」は、このくそったれの世の中にあって、それが時に悲劇をもたらす場合があるにせよ、その「心」自体は奇跡的に美しいとわたしは思っています。それが、これほど豊かに描かれた映画に、ちまちま文句を付ける気にはなれません。たしかに、このおはなしにはいい人しか出てこないし、リサは無茶ばかりするし、なにもかもがご都合主義的にうまく行き過ぎるし、「うまく行くかどうか」というサスペンスすらもないけれど、それが一体なんだと言うのか。作劇のお約束を守ることに、辻褄を合わせることに、どれほどの価値があろうか。ポニョがサンゴ塔を飛び出して大好きな宗介のところへ向かう道のり。ポニョの「想い」そのもののような、渦巻き、のたうつ、黄金の奔流!波の上を走るポニョ、風にはためくスカート、その疾走感。それが生み出す幸福感。その描写のあまりの、目が眩むほどの、まばゆさ。「誰かを恋焦がれる想い」をアニメーションにすると、ああ、そうか、こうなるんだ、と思わずにはいられない、アニメーションに描き得る最大級のロマンの前に、そんな小さなことどもが、いったい、なんだと言うのか。


なんて、ネットに溢れる「ポニョ is fuckin' crazy!」コールに納得いかなくて好戦的な物言いになりましたけど、これほどたくさんの人が「狂ってる」「ワケがわからない」と、やいやい騒いでいることが不思議でなりません。みんな落ち着けよ、これ童話じゃん、と正直思う。だってシンデレラのガラスの靴に「そんな靴履けるかい!」って目くじら立てないでしょう?論理的でないとか倫理的でないとか現実的でないとか言うのはピントがズレてるように思うのです。あんなふうに町が水没して、人がひとりも死んでないのはおかしいとか、いや人がいっぱい死んでいるのに能天気すぎるとか、この話にそんなリアリティを求める方がヘンだよ…。この映画に成長とか闘いはないけど、いつもどの映画でも成長したり闘ったりしなきゃいけないわけじゃないじゃん…。ただもう、「宗介大好き!」「ポニョ大好き!」と言って、スプーンに残ったハチミツをなめて、ハムをほおばって、チキンラーメンをすすって、ポンポン船で冒険して、魔法のキスで終わるこの映画の至福を素直に受け止めればいいし、そうできた自分は「時かけ」のときの負けを取り戻せた気分でたいへん満足です!


追記:
ネットのポニョ評読んでて思ったけど、男の人ってなんでもかんでもチンコに見立てるの好きすぎ。そんな評ばっかりで正直うんざりするヴァー。