「インビジブル・ターゲット」@天六ユウラク座(CinemaScapeコメント再録)

ジャッキー・チェンの映画DNAを注入された香港映画人が渾身のフルスイング。もちろんジャッキーの映画はジャッキーにしか作れない…「でもやるんだよ!」とばかり、懸命に闘魂伝承しようとする志に、心を鷲摑みにされました。


まずはとにかく、ニコラス・ツェーの奮闘に敬服せずにはいられません。ジャッキー式スタントアクションを一手に引き受け大車輪の活躍。走ってくるバスにぶつかったり、高いところから蹴られて落ちたり、本格的にハードなスタントをこなす姿に闘魂注入の証を見て、深々と感じ入りました。一方アクションの経験がほとんどないジェイシー・チェン。彼をこの映画でどう活かせるか不安に思っていましたが、出来ないことを逆手に取り且つキャラクター面でジャッキーのDNAを発揮させ、むしろドラマの肝となるような役柄と見せ場を割り振ってみせたベニー・チャンの力量を称えたいです。(と、他の二人が良かった分、ショーン・ユーがいまいちパッとしなかったのは残念。)


しかし、主人公たち以上にこの映画で輝いていたのは悪役ナンバーワンとナンバーツー、ウー・ジンとアンディ・オンでした。『SPL/狼よ静かに死ね』の冷酷ナイフ野郎と『香港国際警察/NEW POLICE STORY』の赤ジャンパーでおなじみの憎いアイツらですよ!(おなじみじゃない方は上記二作を観ること!)特にウー・ジンは技のキレ、スピード、重量感が別格、そしてその存在感にグッと心をつかまれて、今回ですっかりファンになりました。アンディ・オンに関しては、もっとアクションの見せ場を与えて欲しかったとは思いますが、ジェイシー・チェンと対を成すキャラクターで、声に出して言いたい名台詞もある役得ぶりは嬉しかったです。(ジョニー・トーの「マッド探偵」が楽しみ!)近年の香港映画で光っていたアクションスターが更に活躍している姿を見られたこと、そしてこれから更なる活躍が期待できそうなこと、この上ない喜びでした。

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正直言うと、脚本にはいくつも大きな穴があります。また、アクション演出の意図に役者の力量が届いていない部分も散見されます。それでも、あまり元気のない香港映画界で、アクション界に若い世代の大スター不在の中、これだけ力のある作品を作ってくれたこと、そしてそこにジャッキー式映画魂が受け継がれていることに、心を動かさずにはいられません。


ジェイシー・チェンが映画デビューしたとき、彼に「ジャッキー・チェンの後継者」を期待する気はさらさら起きませんでした。なぜなら、才能は世襲しないからです。そもそも、ジャッキー・チェンの才能はあまりにも唯一無二です。「第二のチャップリン」がどこにもいない(メル・ブルックスは「第二のチャップリン」と呼ばれたりもしますがあまり妥当ではないと思う)のならば、「次のジャッキー」を香港映画界に求めること自体が愚かなことなのかもしれない。それでも、他のどこでもない香港という地にその才能があるならば、自分たちがそれを受け継ぐのだ、という香港映画人の志に、心を動かされずにはいられないんです。


かつて一度でも、ジャッキー・チェンの映画に心躍らせたことのある方は、どうか劇場へ足を運んでください。今まだこうして闘魂を受け継ごうとする映画人がいることと、彼らの頑張りを、その成果を、無視しないで欲しい。きちんと見ておいて欲しい。


そんなお願いを、してみたくなる位に。


追記:
東京と大阪のたった2館でしかかかっていない(近日上映が決まっているのも含めても千葉・宮城・愛知・福岡のみ)とは寂しい限り…関西はせめて天六ユウラク*1だけでなく(ユウラク座はユウラク座できらいではないけれど)せめて京都・神戸にも巡回してくれることを願ってやみません。そして大阪では9/19、東京では9/26までですのでお観逃しなく!

*1:東京の映画館に例えると銀座シネパトスです。